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  • hokurikunogekihyo

利賀演劇人コンクール2018レポート⑤世界劇団from愛媛インタビューその3


 世界劇団インタビューその3は、3都市ツアーでの公演を予定しているオリジナル作品「さらばコスモス」について、世界劇団の拠点愛媛県東温市で今起こっている舞台芸術をめぐる新しい動き、「アートヴィレッジとうおん」について伺った。


世界劇団のメンバー。左から赤澤さん、高山さん、廣本さん、本坊さん。



「人の想像力で世界はできている」ーオリジナル作品「さらばコスモス」


ーー次の公演の「さらばコスモス」はどんな話なんですか?


本坊:そうですね。ちょっと宣伝になってしまうんですけど。


ーー是非して下さい。


本坊:ありがとうございます。助かります(笑)。なんかこう、人の想像力で世界はできている、みたいなことがちょっと面白いなと思っていて。で、特に彼女(赤澤さん)は精神科医として働いているんですけど、精神疾患とかで妄想のある患者さんとかの話を聞いてると、その人にとってそれが本当で、そういう幻聴とか聞こえていないのが嘘なんじゃないかみたいな感覚になる時があって。

 

 でもそういうのって私たちの世界の中にも全然あって、例えば報道とかでこの人が犯人であるかのようにワイドショーとかで流れたら、その人が犯人かどうかわかんないのに「犯人なんだろうな」みたいな。想像でそういう既成事実が出来上がってしまう、みたいなのがおもしろいなと思って。


 世界の成り立ちってどこから来てるんだろうとか。ギリシャ神話をもとに考えてるんです。ギリシャ神話自体が人間の想像に基づいてできたお話であるにもかかわらず、かなり今の、ヨーロッパが主だと思うんですけど、ギリシャ神話の影響力でこの世界がイメージされて、そこが成り立っているんだろうなみたいなのがすごくおもしろくて。なんかちょっとそことリンクしてます。


ーーギリシャ神話、色々ありますが?


本坊:そうですね、アポロンだったりとか、いくつかのエピソードを組み入れてます。


ーー俳優さんは?


本坊:ここ3人と、愛媛の客演で、白塗りの舞踏家さんに出ていただきます。愛媛の方です。


ーーオール愛媛で?


本坊:オール愛媛です(笑)


ーーすごい。お医者さんもやりながら、地方から遠方に公演しに行くってなかなかできないことだと思います。


本坊:はい。


ーーでもまだお若いですよね?


本坊:(私が)27、(赤澤が)26、(廣本が)24。


高山:僕は42です。


一同、笑う。


ーーまだまだこれからですね。演劇大好きなんですね。


本坊:そうかもしれないです。



「さらばコスモス」過去の公演写真
「さらばコスモス」過去の公演写真(提供:世界劇団)



 

愛媛は演劇よりもダンス


ーー地方でこれだけ精力的にやってる劇団てなかなかないと思いますが、そうでもないですか?


本坊:四国では初めてだと思います。


ーー四国の劇団がこんなにあっち行ったりこっち行ったりって珍しいですね。


本坊:(次回公演を行う)三重の津あけぼの座さんとかもかなりいろんな劇団呼ばれてますけど、四国は初だったりとか。東京のアゴラも、たぶん四国の劇団が行くのはそんなないんじゃないかな。


ーー愛媛は演劇が盛んなんですか?


本坊:いやー。


赤澤:ダンスの方が強いですね。


高山:コンテンポラリーの方のダンスがすごく強い。 たぶん、「踊りに行くぜ!!」っていう全国展開のやつが松山であって、松山大学と愛媛大学の創作ダンス系のダンス部がすごく強いんですよ。そこの子たちが残ってダンスを続けて、そこで受け皿みたいなスタジオがあって、そこにカンパニーもあって、という状況で。僕が九州に住んでるときも、松山はすごくダンス強いなっていうイメージがすごいあります。


ーー今、四国学院大学の名前をよく聞きますが?


本坊:あれは香川です。


ーー最近よく地方公演会場の一つになってますよね。


本坊:すごいですよね。


高山:いいもの見れますよね。あれ(平田)オリザさんが入ってますんで。


ーー愛媛はまだコンテンポラリー色が強いかなっていう?


高山:ダンスはたぶん、高知か愛媛、松山ですね。高知は県立美術館がすごくダンスとか、パフォーミングアートに力を入れていて。美術館がすごい力を入れてて。おもしろいも世界的なやつ、山田うんさんが来てたりとかするんで。


ーー普段皆さんは演劇見られる時はどの辺に行くんですか?


本坊:四国学院とか、シアターねこに県外の良質な舞台が来る時は絶対行くとか。


赤澤:東京、大阪も出ますね。


廣本:東京、大阪にも行ったりします。


本坊:行くしかないって感じですね。北九州とかはフェリーで行けるので、北九州芸術劇場で何かあるときはたまにフェリーに乗って行きます。


ーーそういう環境の中で本当によくやってらっしゃるなと思います。


高山:本当そう思います。インプットの量が、圧倒的に選択肢が少ないと思います。



アートヴィレッジとうおんは「完璧に、想定外です」


ーーそんな中で※アートヴィレッジとうおんができたわけですね。


本坊:アートヴィレッジとうおんに関してはほんと棚から牡丹餅っていう感覚です。偶然、みたいな。


アートヴィレッジとうおん…愛媛県東温市は現在「アートヴィレッジとうおん構想」を策定し舞台芸術を中心とした新しいまちづくり事業を行っている。2018年4月には、小劇場、稽古場、交流サロンの3つのスペースを有する東温アートヴィレッジセンターがオープンした。



アートヴィレッジ構想によってできた小劇場のある商業施設の内部
アートヴィレッジ構想によってできた小劇場のある商業施設の内部(提供:世界劇団)


ーー演劇で人を呼ぶという利賀村的なことを?


高山:市民と一緒に演劇を楽しむという文化が根付いてないので。


ーーそもそもどうして東温市で舞台芸術となったんですか?


高山:東温市には民間で坊ちゃん劇場というのがあって、四国を題材に1年間ミュージカルを上演し続けるという特殊な劇場があるのですが、それを基に地域活性しましょうみたいな方向に舵を切ったんですよね、たぶん、東温市が。東温市って何も売りがない。何を売りにするってなった時に、舞台芸術って言っちゃったっていう。


ーー坊ちゃん劇場はすごい影響力ですね。


高山:地域の民間企業なので。


ーー企業なんですか?影響力強い感じがしますね。アートヴィレッジとはどういうものなんですか?


高山:舞台芸術で東温市を活性化というかブランディングしていきましょうみたいなプランなんです。坊ちゃん劇場はミュージカルしかやってないんで、演劇イコールミュージカルな人たちしかいないんですよ。本当に田舎で。僕はミュージカル見たことはあるけど、そんなにミュージカルが好きじゃないし。そうなった時に、選択肢増やしたいなと思って。僕が入ってきて、小劇場がせっかくできるんだから。こういう世界劇団みたいなことも知られてないんですよ。東温市では、あまり。


本坊:たぶん、そうですね。


高山:なんか地元の人でもSCOTのすごさがわからないっていうのあるじゃないですか。すごさというか、なんかその積み上げてきたものが。


ーー芸術的な価値というか。SCOTよりもテレビの方がおもしろいと思う人はいると思います。じゃあ高山さんは今後は小劇場的なことに力を入れていきたい?


高山:演劇ってちょっと近寄りがたいところあるじゃないですか?ミュージカルだったらばんばん人が来るんですよ。市民ミュージカルやりますって言ったら、すごい殺到するんですよ。


ーーそうなんですか?お客さんが?


高山:参加したいって人が。おかしいレベルで。


ーーすでに東温市はミュージカルを行ったんですね?


高山:出演者が50人くらいの。小劇場で演劇やってる人たちと坊ちゃん劇場っていうのは乖離してるんですよね。市民もミュージカル見たことはあるけど、いわゆる小劇場的ないろんな表現を見たことはないけど、「演劇好きです」、「演劇イコールミュージカル好きです」と。いろんなものいくつか見た後に、「やっぱりミュージカル好きだな」っていうのは僕は健全だと思うんですけど、他に選択肢がない中で、実はミュージカル嫌いだから演劇から離れてる人っていっぱいいると思うんですよ。嫌いというかあまりしっくりこないから。でも、他のものを見たら「以外に演劇面白いじゃないか」って人たちもいるような気がするんですよ。逆に。いくつか見た後に「これが好きだ」って言える土地になってほしいなって、僕は今思ってて。


ーー高山さんの役割ですね。


高山:そういうものをなるべく呼べるように。ちょっと予算はついてるので。


ーー出る方で市民が参加するものだけではなくて?


高山:ワークショップだったり、公演みたいなことも。今年1年間は少し予算があるので、僕の今までのツテでちゃんとしたものを呼びたいなという。


ーー世界劇団さんとしてはおもしろくなってきているという感じですか?


本坊:予想外ですね。完璧に、想定外です。


ーー逆に「ワークショップでこんな人のを受けたい」とか、「こんな人の公演見たい」っていうのも高山さんにお願いしたらできるのでは?


高山:そうですね。今即興系のやつ、コンタクトインプロの人とか呼ぼうとしてるんですけど。そういうことの方が素人でも楽しめたりとか、そういうことから入りたいなと思ってて。台本覚えて何か特殊な訓練をしないとできないみたいに思われてるけど、本当に「二人がいて、何かが始められるよね」、「それが演劇だよね」みたいなことでもしいけたら。ダンスも、「二人が関係性作りながら動くだけでダンスだよね」みたいなことからスタートできると、ひょっとしたら裾野は広がるのかもと僕は今思ってるんですけど。


ーーけっこうおもしろくなりそうですね、東温市は。


高山:すごいことうたってるんですよ。アートヴィレッジとうおんで舞台芸術の聖地とかうたっちゃってるんですけど。外から見たら、舞台芸術の聖地はここ(利賀村)だったりするんですよ。誰も視察に行ってなくて。ここのこと知らないけど、聖地とか言っちゃってるんですよ。田舎の人間が井の中の蛙的な状態で言っちゃったことの責任を取らなきゃいけないような状況にこっちはなってるんで。


ーー高山さん以外でそういう風に中心になって進めてる方がいらっしゃる?


高山:「聖地化を」って言ったのは、坊ちゃん劇場と東温市が言い始めて。坊ちゃん劇場も小劇場シーンとかこういう演劇シーンに深く関わっているわけではなくて、東京からいわゆる商業系のミュージカルの俳優とか来て、演出家来て「作品作りました」っていうことで。東京って聞いたらもう「すげえ」みたいな空気なんですよ。吟味しようよみたいなことの価値感がないから、そこに知らずに僕来たので、「こわっ」と思って(笑)


ーーそこは高山さんが上手く入り込めば上手い具合に作用しそうですよね。


高山:だといいですけどね。




新しくできた小劇場シアターNESTでの照明ワークショップの様子
新しくできた小劇場シアターNEST内部(照明ワークショップの様子)(提供:世界劇団)


(2018年7月27日利賀創造交流館)


 

 ありきたりな表現ではあるが、世界劇団はまさに「勢いのある」劇団だった。アートヴィレッジ化を進める東温市でどんな存在になっていくのだろうか。そして、アートヴィレッジそのものもどう発展してゆくのだろうか。地方を拠点に活動する劇団ということで、劇団の活動に付随してその地域ならではの文化事情を聞くことができたが、舞台芸術に関心がある者なら、東温市を訪れてみたくなったのではないだろうか。また、C.T.T.や演劇フェスなどを通した、四国、中国、九州エリアでの演劇人同士のネットワークが垣間見えたインタビューだった。

 


世界劇団2018年3都市ツアー「さらばコスモス」公演情報

世界劇団「さらばコスモス」チラシ
世界劇団「さらばコスモス」チラシ

 昔々、人々は想像した。神話を生み世界を創った。ある日事件が起きる。

三人家族の父親が殺された。死体の頭は真っ二つに割られていた。娘と母親、事件を追うジャーナリスト、死体を解剖する医者。真実を究明する四人と空想の神々がリンクしていく。人間の根源、社会の構造、医学の真実を神話をモチーフに描く。身体と音と言葉の嵐。総合芸術を劇場空間で体感あれ。


■三重公演■津あけぼの座

2018年9月15-16日

■東京公演■こまばアゴラ劇場

2018年9月22-24日

■松山公演■シアターねこ

2018年10月6-7日

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