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利賀演劇人コンクール2018レポート①富山の山奥に国内の若手演劇人が集っていた


日本の若手演劇人が富山で作品を発表

 

 富山県南砺市にある利賀村で毎年7月に「利賀演劇人コンクール」が開催されている。公益財団法人舞台芸術財団演劇人会議が主催するこのコンクールでは「地域を越え、国際的に活躍できる演出家の発掘と養成」をコンセプトに、書類審査を通過した演出家が、一週間の開催期間中、課題戯曲の中から自ら選んだ作品を上演し、その演出力が審査される。課題戯曲はシェイクスピアやテネシー・ウィリアムズ、三島由紀夫などの国内外の有名な戯曲作品ばかりである。演劇の聖地・利賀村で開催されるコンクールであること、平田オリザら著名な演出家からコメントがもらえること、受賞者にはその後の活動に対する支援があることなど、仲間や舞台セットと共に山奥まで行って参加するのに値する魅力的なコンクールとなっており、これまで、関東、関西を中心に北海道や九州など日本全国から気概のある若手演劇人が参加している。副賞として用意されている賞金総額も200万円(2017年より)と決して少ない額ではない。審査に使われる会場は、富山県利賀芸術公園内にある、合掌造りを改装した「利賀山房」と野外にある「岩舞台」となっており、参加者にとっては普段使用している劇場とは趣の異なる空間での上演となることが、このコンクールの特徴である。  

 上演は1日に多くとも2つまでで、上演後すぐに審査員による講評会が始まる。一般の観客もその場に居合わせることができるため、審査される側からすれば緊張の時間ではあるが、観客としては自分がさっき見た作品をプロの演出家ら審査員がどのように見たのか、そして作り手がどのような意図、思いで作ったのかをその場で聞けるとあり、エキサイティングなひとときである。

利賀芸術公園へ向かう途中、車道からの景色

なぜ富山に演劇の聖地があるのか

 利賀村は富山の市街地から山の中を車で1時間ほど進んだところにある山間の村だ。北陸の人間であっても、ここが「演劇の聖地」と呼ばれていることを知る者はそんなに多くはない。富山県民でさえ、利賀村は演劇よりも、冬は雪深く、そばが有名なところというイメージが強いだろう。コンビニもスーパーもなく、住民は500人台(2017年現在)と過疎化の進むこの村には、国際的な演出家、鈴木忠志率いる劇団SCOTが40年以上も前から拠点を置いており、このことが村を聖地たらしめている。劇団SCOT(旧名・早稲田小劇場)は、東京の早稲田を拠点に前衛的な演劇作品を発表していた劇団で、鈴木忠志は寺山修司、唐十郎らとともに「アングラ御三家」と呼ばれることもあった。早稲田小劇場の設立時のメンバーには不条理劇の作家として知られる別役実がおり、また、白石加代子が看板女優として在籍していたことでも知られている。

 

 利賀村に拠点を移す前から、鈴木忠志らは日本のみならず、海外でも多数公演を行うなどの実績を重ね、拠点を移した後には、伝統的な日本家屋で行われる彼らの作品を見ようと利賀村に多くの人が訪れることとなる。利賀村ではSCOTの公演以外にも、日本初の国際演劇祭「世界演劇祭」が開催され、海外の演劇学校でも取り入れられている「スズキメソッド」と呼ばれる鈴木独自の俳優トレーニングを鈴木自らが指導することもあり、数多くの演劇人が国内外から訪れるようになった。山間の村に演劇を通して世界から大勢の人が集まる光景は、日本中どこを探しても見当たらない。利賀村が「演劇の聖地」と呼ばれる所以である。現在もSCOTは本拠地での公演をはじめ、海外公演も行っており、さらに来年2019年にはシアターオリンピックスという世界各国の舞台芸術の祭典が利賀村で開催される。

利賀演劇人コンクール2018参加者の顔ぶれ


 2018年の利賀演劇人コンクールは、7月23日(月)から7月29日(日)まで開催され、豊島勇士(maz、京都府)、蜂巣もも(グループ・野原、東京都)、福永武史(わが街の小劇場、沖縄県)、本坊由華子(世界劇団、愛媛県)、村社祐太朗(新聞家、東京都)、野村眞人(劇団速度、京都府)、波田野淳紘(劇団820製作所、神奈川県)の7名の演出家が仲間と共に利賀村を訪れた。例年通り関東や関西からの参加が多い中、愛媛と沖縄という、北陸ではなかなかお目にかかることのない地域の参加者も含まれていた。

 

 審査員は、小澤英実(批評家・翻訳家・東京学芸大学准教授)、蔦森皓祐(俳優・SCOT所属)、中島諒人(演出家・鳥の劇場芸術監督)、平田オリザ(舞台芸術財団演劇人会議理事・青年団主宰・こまばアゴラ劇場芸術総監督・劇作家・演出家)、宮城聰(演出家・SPAC-静岡県舞台芸術センター芸術総監督)の5名。 また今年は、今後コンクールへの応募を希望している若手演劇人がスカラシップ参加者として滞在費無料でこのコンクールを観劇できるという企画もあり、観客席にはコンクール参加者以外の若手演劇人の顔ぶれも並んでいた。

●参考サイト


利賀演劇人コンクール http://togaconcour.tumblr.com

SCOT http://www.scot-suzukicompany.com ※コンクール参加者とスカラシップ参加者の演劇人たちへのインタビューは特集の後半に掲載します。

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